東京地方裁判所 昭和40年(ワ)1529号 判決 1966年10月25日
原告 秋山薬品株式会社
右訴訟代理人弁護士 上野敏三
同 広江武彦
被告 高橋鶴治
右訴訟代理人弁護士 田利治
主文
被告は原告に対し金一四〇万七、二二〇円およびこれに対する昭和四〇年三月七日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
<全部省略>
理由
一、原告が薬品を卸売する商人であり被告に対し昭和三五年九月一五日から同三七年九月一四日に至る間、諸種の薬品を売渡しこの売買代金債務残額金一、四〇七、二二〇円である事実については当事者間に争いはない。
二、被告は本件売掛代金債務については昭和三七年一一月頃、原告会社、訴外萬邦薬品ならびに被告三者間に合意によって右訴外会社が免責的に右債務を引受け、被告の原告に対する本件売掛代金債務は消滅したとの抗弁については<省略>を総合すれば、被告は原告から購入した薬品類はすべて訴外寿美病院に売却し、その代金をもって原告への支払にあてていたものであり、昭和三七年九月頃、右病院が経営不振に陥り代金支払を滞るに及んで被告もまた原告への支払が不能となったこと、および被告はその直後訴外萬邦薬品に入社したが、その頃右萬邦薬品の取締役河野利貞が右寿美病院の経営を担当し、その負債整理に当ったこと、右萬邦薬品が被告のため同人に本件売掛代金債務の整理を約したこと、右売掛代金債務の整理のため昭和三七年一一月頃、原告会社代表取締役高橋正二、萬邦薬品取締役河野利貞(当時寿美病院理事長)ならびに被告が寿美病院で会合した事実、その後昭和三八年三月三〇日萬邦薬品振出の約束手形三通が原告会社に交付された事実および右手形が不渡になった後同年六月一四日右河野利貞から原告会社に金二〇〇、〇〇〇円の支払があった事実が認められるのであるが、原告が、訴外萬邦薬品が被告の本件売掛代金債務を引受ることおよび被告をして右債務から免責させることを承諾したことを認めるに足る証拠はない。もっとも、成立に争いない乙第二号証の一ないし三、原告本人尋問の結果によれば、前示訴外萬邦薬品振出の手形に対し原告は直接右会社代表取締役金子秀夫にあて領収書を出した事実が認められるのであるが、右本人尋問の結果により右手形の交付者が右会社代表者金子秀夫であるから同人に対して領収証を発行したものであることが認められるにすぎず、これによって右の認定を覆すことはできず、他に右認定を覆すに足る証拠はないから被告の免責的債務引受を主張する抗弁は採用できない。
三、ところで被告は本件債務について抗弁として時効を援用し、原告はこれに対し被告が右債務を承認することによって右時効は中断されたと再抗弁するのでこの点につき判断するに、本件債務が薬品の卸売代価であり、かつ右売買成立の最終日が昭和三七年九月一四日であることは前記のごとく当事者に争いなく弁済期についての定のあったことの主張はないから、右債務は昭和三九年九月一四日をもって時効期間満了したものと認むべきところ、上記認定の事実によれば被告は右最終取引日の後である昭和三八年三月三〇日、被告は本件売掛代金債務を承認して訴外萬邦薬品をして各債務の支払に当てるため約束手形三通を振出さしめたものと認めるのが相当であるから、右債務の承認によって被告主張の時効は中断されたものと認められるから被告の時効の抗弁は理由がない。<以下省略>。